大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)25号 判決 1981年4月15日
大阪市住吉区長居町中三の七〇
原告
前田正行
右訴訟代理人弁護士
鈴木康隆
同
南野雄二
同
佐藤欣哉
佐藤欣哉訴訟復代理人弁護士
渡辺和恵
大阪市住吉区上住吉町一八一番地
被告
住吉税務署長
岸田富治郎
右指定代理人
高須要子
同
本落孝志
同
勝瑞(じょうずい)茂喜
同
井上勝
主文
一 被告が原告に対し昭和四九年一二月二三日付でなした原告の昭和四七年度分および昭和四八年度分の各所得税についての各更正処分ならびにこれに伴う各過少申告加算税賦課決定処分のうち、昭和四七年度分については総所得金額二五三万六、二七〇円を超える部分および右超過部分に相応する過少申告加算税賦課決定処分、昭和四八年度分については総所得金額三〇九万一、九八一円を超える部分および右超過部分に相応する過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告
1 被告が原告に対し、昭和四九年一二月二三日付でなした原告の昭和四七年度分および昭和四八年度分の各所得税についての各更正処分ならびにこれに伴う各過少申告加算税賦課決定処分はいずれもこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求の原因
一 原告は、家具小売業を営む者であるが、昭和四七年度および昭和四八年度の各所得税について、被告に対し、別表一の申告額欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、昭和四九年一二月二三日付で原告に対し、同表更正額欄記載のとおりの更正処分(以下、本件各更正処分という。)および過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件各加算税賦課決定処分という。)をした。
二 しかしながら、被告のした本件各更正処分および各加算税賦課決定処分はいずれも違法不当な推計を根拠になされたものであるから、取消されるべきものである。
第三被告の答弁
一 請求の原因一記載の事実は認める。
二 同二記載の事実は争う。
第四被告の主張
一 原告の係争各年分の総所得金額およびその明細は、別表二のA欄(主位的主張)および同表のB欄(予備的主張)記載のとおりであるから、本件各更正処分および各加算税賦課決定処分には違法な点はない。
二 主位的主張および予備的主張について
(一) 主位的主張は、原告の所轄税務署(住吉税務署)管内に事業所を有し、原告と事業内容が類似する一般和洋家具の小売のみを行っている個人同業者で、昭和四七年および昭和四八年とも年間を通じて事業を継続して営み、年間の仕入金額が五〇〇万円以上で両年度とも青色申告書を提出している者全部の平均差益率昭和四七年分〇・二五九、昭和四八年分〇・二七三八および平均一般経費率昭和四七年分〇・〇六一、昭和四八年分〇・〇五九四(別表三)を適用して、これにより推計したもので、合理的なものである。
(二) 予備的主張は、住吉税務署に隣接する大阪市内の港・阿部野・東住吉あるいは西成のいずれかの税務署管内に事業所を有し、原告と事業内容が類似する個人同業者で、昭和四七年および昭和四八年とも年間を通じて事業を継続して営み、当該年分について売上原価が一、二〇〇万円以下で、両年度とも青色申告書を提出していて、当該年分について不服申立または訴訟を提起していない者全部の平均差益率昭和四七年分〇・二六〇八、昭和四八年分〇・二七〇八および平均一般経費率昭和四七年分〇・〇五四、昭和四八年分〇・〇五四五(別表四)を適用して、これにより推計したもので、合理的なものである。
(三) 純資産の増減等により推計した場合の昭和四七年分の原告の総所得金額(予備的主張)
もしかりに、昭和四七年分の期首たな卸高が、原告の主張するように七〇〇万円であったとしても、昭和四七年中の原告の純資産の増加額に、同年中に支出した金額で所得税法上必要経費に算入されない金額(所得税法第四五条参照)を加算して原告の総所得金額を計算すると、別表五のとおり三六三万〇、九五七円となる。
なお、右の具体的な計算方法及び資産負債等の各科目の算出根拠については、後記三の(二)の主張と同様である。
(四) なお、売上金額および一般的な経費の算出過程は左のとおりである。
売上金額
(期首たな卸高)+(仕入金額)-(期末たな卸高)=(売上原価)
(売上原価)÷(1-差益率)=(売上金額)
一般的な経費
(売上金額)×(経費率)=(一般的な経費)
三 別表二の昭和四七年分売上原価のうちの期首たな卸高について
(一) 昭和四六年分の売上原価を推計して期首たな卸高を計算した場合
原告の昭和四七年分の仕入金額(一、〇四八万六、六九五円)と昭和四八年分の仕入金額(一、一五五万六、二〇〇円)とがおおむね等しく新築開店後の営業状態は著しい変化はないと考えられるので、原告の昭和四八年分の売上原価を原告が昭和四六年の一年間を通して営業していたものとした場合の売上原価と仮定し、これに前記二、(一)の同業者の昭和四六年分ないし昭和四八年分の各年分の売上金額に対する同年分の一〇月から一二月までの間の売上金額の占める割合(以下「売上金額の割合」という。)を乗じて計算した金額(原告の昭和四六年分の売上原価の推計額)を、昭和四六年分の仕入金額から控除して、同年分の期末たな卸高(昭和四七年分の期首たな卸高)を推計すると次のとおりであり、その金額は八二〇万円を上廻ることとなる。
1 住吉税務署管内の同業者の「売上金額の割合」による場合
イ 原告の昭和四六年一〇月から一二月までの間の仕入金額 一、一八八万一、七七四円
ロ 昭和四六年一〇月から一二月までの間の売上原価の推計額 三四九万一、一二九円
(算式)
原告の昭和48年分 住吉署管内の同業者
売上原価の売上金額の割合
11,556,200円×30.21%=3,491,129円
(右の住吉署管内の同業者の「売上金額の割合」は別表六のとおりである。)
ハ 昭和四七年分期首たな卸高(イ-ロ) 八三九万〇、六四五円
2 隣接四署管内の同業者の「売上金額の割合」による場合
イ 原告の昭和四六年一〇月から一二月までの間の仕入金額 一、一八八万一、七七四円
ロ 昭和四六年一〇月から一二月までの間の売上原価の推計額 三五三万九、六六五円
(算式)
原告の昭和48年分 隣接四署管内の同業
の売上原価者の売上金額の割合
11,556,200円×30.63%=3,539,665円
(右の隣接四署管内の同業者の「売上金額の割合」は、別表七のとおりである。)
ハ 昭和四七年分期首たな卸高(イ-ロ) 八三四万二、一〇九円
(二) 昭和四七年中の純資産の増減等によって計算した場合
1 原告の昭和四七年の期末の純資産の価額(期末の資産の合計額から負債の合計額を控除した金額)から期首たな卸高を八二〇万円と仮定して計算した期首の純資産の価額(元入金)を控除した金額、すなわち同年中の純資産の増加額に、同年中に支出した金額のうち所得税法上必要経費に算入されない金額(否認利子及び店主貸の金額)を加算して原告の総所得金額を計算すると表八のとおり二七三万〇、九五七円となり、事業所得金額は二四三万〇、九五七円となる。この金額は、期首たな卸高を八二〇万円として計算した売上原価に、同業者率を適用して推計した事業所得金額(主位的主張の金額二三六万九、〇一九円、予備的主張の金額二五一万五、七四九円)と大体一致する。したがって、昭和四七年分の期首たな卸高を八二〇万円と推計したことは妥当である。
2 車輛について
原告は、昭和四六年二月軽トラックを三〇万円で購入し、さらに昭和四七年一〇月貨物自動車(ハイエース)を五〇万円で購入した。
なお、原告は、貨物自動車(ハイエース)の取得時期は昭和四七年一〇月であるとの被告の主張をいったんは認めたのであるが、錯誤により、真実と異なる答弁をしたとして後日これを撤回し、その取得時期は、昭和四六年九月であると主張している。しかしながら、原告は右被告の主張を認めたことについて、それが真実と異るものであることの明確な立証をしておらず、また、右錯誤には重大な過失があるから、右主張の撤回は認められない。
3 減価償却費について
定額法によれば、前記車輛ならびに建物の減価償却費は別表九のとおりである。
なお、建物のうち、六二・五パーセント(八分の五)が事業の用に供されており、その残りが居住の用に供されていた。
4 否認利子について
建物のうち、六二・五パーセント(八分の五)の部分が事業の用に供され、その残りが居住の用に供されていたのであるから、建築資金の借入金の昭和四七年の支払利子割引料八三万六、九八八円のうち三七・五パーセントにあたる三一万三、八七一円は経費とならない。
5 家計消費支出額について
家計消費支出額の算出根拠
家計消費支出額は、総理府統計局の家計調査年報の統計表(以下単に総理府家計統計表という。)を用いて、以下のとおおり算出(推計)したものである。
(イ) まず、総理府家計統計表の「第九-二表-3地方年間収入階級別一世帯当たり年平均一か月間の収入と支出(全世帯・勤労世帯)」における原告に用いるべき年平均一か月間の家計消費支出額を求めた。
(ロ) すなわち、右第九-二表のうち、原告の住所は大阪市であるので京阪神の表を、勤労世帯ではないのでそのうちの全世帯の表を用いることとし、また、被告の主張する原告の昭和四七年分の総所得金額は二六六万九、〇一九円であるので、同表の「¥2,500,000~2,999,999」の欄によることとし、原告の家計消費支出額の推計に用いるべき年平均一カ月間の家計消費支出額一二万〇、九六六円を得たものである。
(ハ) しかしながら、右の欄にも明らかなとおり、右金額に対応する世帯人員は四・四八人であり、世帯主の年令は四八・九才であるところ、原告の世帯人員は四人(本人・妻・長男・二男)であり、原告の年齢は四九才(大正一二年生)であるので、これらの差異につき、右消費支出額の換算をする必要があり、そこで、総理府家計統計表の「第四表-世帯人員・世帯主の年齢階級別一世帯当たり年平均一か月間の収入と支出(全世帯)」により、世帯人員換算係数と世帯主年令換算係数を求めた。
(ニ) すなわち、世帯人員換算係数は、右第四表の世帯人員四人の欄の家計消費支出額九万九、八六四円と、同じく五人の欄の額一〇万六、四六六円から世帯人員四・四八人の場合の家計消費支出額を次の算式により推計し、当該四・四八人の場合の額で、右四人の場合の額を除して世帯人員換算係数とした。
99,864円+(106,466円-99,864円)×(4.48(人)-4(人)=103,032円
(A) (B) (A) (C)
<省略>
(注)
(A) 世帯人員4人の場合の家計消費支出額
(B) 〃 5人 〃 〃
(C) 〃 4.48人 〃 〃
(D) 世帯人員換算計数
(ホ) また世帯主年齢換算係数は、前記第九-二表で求めた家計消費支出金額に対応する世帯主の年齢は四八・九才、原告の年齢は四九才であって、いずれも前記第四表の世帯主の年齢階級四五~四九才の階級区分に属するので、換算係数は一であり、したがって事実上換算の要はない。
(ヘ) しかして、前記世帯人員換算係数を用いて計算した、原告の家計消費支出額の推計に用うべき年平均一カ月間の家計消費支出額は次のとおりとなる。
120,966円×0.9692=117,240円(年平均1カ月の額)
(ト) 右の結果、原告の昭和四七年分の家計消費支出額を次のとおり計算(推計)したものである。
117,240円×12(カ月)=1,406,880円
6 買掛金について
買掛金は、池崎大創(株)ほか二九名の取引先に対するものである。
7 元入金(資本金)は、別表八の期首資産の合計金額から期首負債の合計金額を控除したものである。
四 別表二のその他の経費のうち、建物減価償却費は、前記三、(二)、3のとおりである。
五 別表二のその他の経費のうち、支払利子割引料としては、前記三、(二)、4と同じ理由で、建築資金の借入金の昭和四七年分の支払利子割引料八三万六、九八八円のうち、六二・五パーセントにあたる五二万三、一一七円が、昭和四八年分の支払利子割引料六〇万一、四二七円のうち、同様の割合の三七万五、八九一円がこれに相当する。
第五原告の答弁および反論
一 被告の主張一に対する原告の主張は別表二のC欄記載のとおりである。
二 被告主張二、(一)について
被告は、本件推計につき類似同業者の比率をもって、原告の差益、経費を計算しているが、被告の計算の基礎となった四業者の差益率、経費率とも各業者、各年度において著しい差があり、到底推計の根拠にできない。すなわち、差益率で昭和四七年で二三・九五ないし二八・〇五パーセントであり、昭和四八年で二三・〇〇ないし三〇・二七パーセントである。経費率に至っては、昭和四七年で三・五三ないし八・四四パーセント、昭和四八年で三・三三ないし八・二四パーセントであって、倍以上の開きとなって出てきている。これを単純に平均して原告にあてはめていることから誤りが生じ無理な計算をせざるを得なくなるのである。
三 被告の主張三、(一)について
右主張における昭和四七年分期首たな卸高の推計は、原告が昭和四六年一〇月に店舗の新築開店を行っており、常年の一〇月ないし一二月の売上より相当多額の売上をあげていることを全く無視しているもので合理性を欠く。
四 被告の主張三、(二)について
(一) 1のうち、別表八の当座預金、定期預金、普通預金、期末のたな卸商品、建物、借入金は認める。
(二) 2のうち、貨物自動車(ハイエース)の購入年月を否認し、その余の事実は認める。右購入年月は昭和四六年九月である。
原告は、当初被告主張の右事実を認めていたが、真実に反し、錯誤に基づくものであるからこれを撤回する。
(三) 3のうち、貨物自動車の購入年月、建物の事業専用割合を否認し、その余の事実は認める。
右購入年月は前記(二)のとおりであり、建物の事業専用割合は、昭和四七年一月以降六月までは九三・七五パーセント、同年七月以降昭和四八年一二月までは八七・五パーセントであった。
そうすると、貨物自動車(ハイエース)の昭和四七年の償却期間は一二カ月であるから、その償却額は九万円となり、また建物については昭和四七年の償却額が二〇万三、九〇六円となる。
(四) 4については左記の限度で認め、その余は否認する。
建物の事業専用割合は前記のとおりであるから、建築資金の借入金についての昭和四七年の支払利子割引料八三万六、九八八円のうち、七五万八、五二〇円が経費と認められるべきもので、右年分の否認利子は七万八、四六八円となる。
原告は、当初被告主張の右事実を認めていたが、真実に反し、錯誤に基づくものであるからこれを撤回する。
(五) 5ないし7は争う。
五 被告の主張四について
前記四、(三)の理由で、昭和四七年の建物減価償却額は二〇万三、九〇六円であり、昭和四八年のそれは一九万六、八七五円である。
六 被告の主張五について
前記四、(三)の理由で、建築資金の借入金の昭和四七年分の支払利子割引料八三万六、九八八円のうち、七五万八、五二〇円、昭和四八年分のそれの六〇万一、四二七円のうち、五二万六、二四九円が経費と認められるべきである。
七 原告は、家具の運搬のために息子の学友にアルバイトを頼んだ。その謝礼として支払った金額は昭和四七年は一八万円を、昭和四八年は二四万円を下らない。
したがって、右金額はそれぞれ当該年分の経費として加算されるべきである。
第六証拠関係
一 原告
1 甲第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証。
2 原告本人
3 乙第六四号証の成立は知らないが、その余の乙号証の成立は認める。
二 被告
1 乙第一ないし第六四号証。
2 証人小谷順一郎、同仲村義哉、同堀井和見。
3 甲第一、第二号証の成立は認めるが、その余の甲号証の成立は知らない。
理由
一 請求の原因一記載の事実については当事者間に争いがない。
二 被告の主張一記載のうち、別表二の昭和四七年分の不動産所得金額、仕入金額、期末たな卸高、地代家賃、昭和四八年分の不動産所得金額、売上原価(期首たな卸高、仕入金額、期末たな卸高)については当事者間に争いがない。
三 差益率および一般経費率(被告の主位的主張)について
成立に争いがない乙第一、第二号証および証人小谷順一郎の証言によれば、被告の主張二、(一)記載の基準で比準業者が選定され、その平均差益率(昭和四七年分〇・二五九、昭和四八年分〇、二七三八)および平均一般経費率(昭和四七年分〇・〇六一、昭和四八年分〇・〇五九四)が算出されたことが認められる。
右事実によれば、右差益率および一般経費率を算出するについて何ら不合理な点は窺われないから、係争各年分の原告の係争各年分の売上金額および一般的な経費を推計するにあたり、右差益率および一般経費率を用いることに何ら非違はない。
なお、被告の主張二、(二)の差益率および一般経費率が右差益率および一般経費率より合理的であることを認めるべき証拠はないから、これを採用しないこととする。
四 昭和四七年分売上原価のうちの期首たな卸高について(被告の主張三、(一)について)
原告の昭和四六年一〇月から一二月までの仕入金額が一、一八八万一、七七四円であることについて、原告が明らかにこれを争っておらず、成立に争いがない乙第三二、第三三号証および原告本人尋問の結果によれば、(1)原告は、昭和四六年五月から九月にかけて建物を新築し、同年一〇月より右建物において家具小売業を再開したこと、(2)前述の差益率および一般経費率を算出するに用いられた比準業者四名の昭和四七年および昭和四八年における年間の各売上金額に対する一〇月から一二月までの各売上金額の割合の平均が別表六のとおり三〇・二一パーセントであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
そして、右事実に基づいて、原告の昭和四七年分の期首たな卸高を八三九万〇、六四五円と推計した被告の主張三、(一)の推計方法について、不合理な点を窮うことができないから、右金額の範囲で、被告が、原告の昭和四七年分期首たな卸高を八二〇万円としたことには非違はない。
右の点に関し、原告は、昭和四六年一〇月に新規開店したことを理由に、同年同月から同年一二月までの売上高の比率が常年より高かったので、昭和四七年分期首たな卸高は七〇〇万円である旨主張し、これに副うかの如き原告本人尋問の結果があるが、これを裏付ける証拠もないから直ちに採用することのできないものであり、他に右推計の合理性を疑わしめる証拠はない。
五 建物減価償却費について
本件建物の減価償却につき定額法を採用する場合において、その取得年月、取得価額、償却の基礎となる金額、耐用年数、償却率、償却額が別表九のとおりとなることについては当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第二号証、乙第五四号証、証人小谷順一郎の証言、原告本人尋問の結果によれば、(1)本件建物は昭和四六年九月に新築された四階建で、各階の面積は約四〇坪であること、(2)新築当時の原告の家族構成は夫婦と子供二人(昭和二五年生れと昭和二七年生れの男子)であり、雇人を置かずに家族で営業していたこと、(3)現在は本件建物の一、二階全部と三階の半分を店舗、三階の残りの半分を倉庫、四階全部を住居として使用していることが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定の事実よりすれば、新築当時右建物には事業用とも居住用とも判別しわねる部分が存していたものと推測されるが、結局現在の使用状況を勘案すると、右建物の新築以降現在までの事業専用割合を、一ないし三階の全部、すなわち七五パーセントであったとみるのが相当である。
右結論に反する証人小谷順一郎の証言部分や、原告本人尋問の結果部分は、本件建物新築当時の家族構成と本件建物の床面積あるいは営業の規模等に照らして採用することはできない。
そうすると、建物減価償却費は係争各年分とも一六万八、七五〇円となる。
六 支払利子割引料について
本件建物の建築資金の借入金の利子割引料として、原告が昭和四七年に八三万六、九八八円を、昭和四八年に六〇万一、四二七円を他へ支払ったことについては当事者間に争いがなく、本件建物の事業専用割合が前記のとおり七五パーセントであるから、右各金員のうち、昭和四七年分の六二万七、七四一円、昭和四八年分の四五万一、〇七〇円が経費となる。
七 原告は、営業のための傭人の給料として支払った金額は昭和四七年は一八万円を、昭和四八年は二四万円を下らないと主張し、これに副うかの如き原告本人尋問の結果があるものの、他にこれを裏付ける証拠もないから直ちに採用することはできない。したがって、原告の右主張を容れることはできない。
八 以上をまとめると、当裁判所の認定は、別表一〇記載のとおりとなる。
そうすると、本件各更正処分および各加算税賦課決定処分のうち、昭和四七年分については総所得金額二五三万六、二七〇円を超える部分および右超過部分に相応する過少申告加算税賦課決定処分、昭和四八年分については総所得金額三〇九万一、九八一円を超える部分および右超過部分に相応する過少申告加算税賦課決定処分は違法であるから取消を免れない。
九 なお、被告は、予備的に、純資産の増減等により推計した場合の昭和四七年分の原告の所得金額が三六三万〇、九五七円となる旨主張しているが、何故昭和四七年分の所得についてのみ純資産の増減等による推計方法を用いるのか不明であり、前掲の推計方法よりも合理的であるとも認められないから、右主張を容れないこととする。
一〇 よって、主文一項掲記の限度で原告の請求は正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 井深泰夫 裁判長裁判官乾達彦は差支えのため裁判官市川正己は転任のため、それぞれ署名押印することができない。裁判官 井深泰夫)
別表一
<省略>
別表二
<省略>
別表三 住吉税務署管内の同業者の差益率等の明細表
<省略>
別表四 隣接四署管内の同業者の差益率等の明細表
<省略>
<省略>
別表五 昭和47年分の純資産の増減等による総所得金額の計算明細表(予備的主張)
<省略>
別表六 住吉税務署管内の同業者の「売上金額の割合」明細表
<省略>
別表七 住吉税務署に隣接する税務署管内の類似同業者の「売上金額の割合」明細表
<省略>
別表八 昭和47年中の資産負債の増減状況表
<省略>
別表九
<省略>
別表一〇
<省略>